マウントサイナイ医科大学 老年医学科
コロワくんサポーターズ代表
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新型コロナワクチンは、過去に新型コロナウイルスによる感染を経験した人にもメリットが大きいことが知られています。
しかしながら、ソーシャルメディアなどで、「過去に新型コロナウイルスに感染していれば、免疫があるからワクチン接種は必要がない」などといった投稿を目にした方もいるかもしれません。「過去に感染していれば免疫がある」という点は正しいものの、なぜそれでも「ワクチン接種のメリットが大きい」と考えられるのでしょうか。
新型コロナウイルスに一度感染した人でも、獲得した免疫が時間とともに減衰したり、新型コロナウイルス自体が次々と新たな変異を獲得したりといった変化のある中で、不運にも再度感染してしまう可能性があることが知られています。イスラエルのHammerman Aらはこの「再感染」について、「新型コロナウイルス感染後にワクチン接種を受けた人(270日間の観察期間中にワクチン接種を1回以上受けた人)」と「受けていない人」との間で再感染率を比較調査し、「新型コロナウイルス感染後にワクチン接種を受けた人の再感染は1日当たり約2.5人/10万人にみられたのに対して、ワクチン未接種者の再感染は、1日当たり約10.2人/10万人であった」と報告しています。こういった数値から、デルタ株流行時のものにはなりますが、新型コロナウイルス感染後にワクチン接種を受けた人の再感染を予防する効果は16〜64歳の人で82%と試算されています(※1)。
※Hammerman A, Sergienko R, Friger M, et al. Effectiveness of the BNT162b2 Vaccine after Recovery from Covid-19. N Engl J Med 2022; 386: 1221-9.に掲載されているグラフデータを元に、一部改変の上、作成
また、オミクロン株流行前のデータにはなりますが、「感染後にワクチン接種を受けなかった人」と「受けた人」で「長期の再感染リスク」を比較した研究によれば、「感染後にワクチン接種を受けなかった人」では感染から1年後に再感染リスクの増加がみられていたのに対し、「2回接種を受けた人(初回接種を完了した人)」では、感染から1年後も再感染リスクは変わらず低下したままであったと報告されています(※2)。
このように、感染後でもワクチン接種を受けることで、再感染リスクを減らす効果が期待でき、さらにその効果が長持ちすることも期待できるのです。
現在流行中のオミクロン株では、残念ながらこれよりも効果は劣ってしまう可能性が高いものの、時間とともに減衰してしまう感染後の獲得免疫を、ワクチン接種をしっかりとアップデートしていくことで強化することが出来るのです。
また、感染後にワクチン接種を受けることで、免疫の「幅」も広がることが示唆されています。例えば当初流行していたオリジナルのウイルスと変異ウイルスの一つであるベータ株の研究(※3)です。オリジナルのウイルスに感染した人の血液を採取し、その血液の中にある抗体の反応をみたところ、オリジナルの新型コロナウイルスに対してはそれを中和する反応がよくみられましたが、変異ウイルスであるベータ株に対しては散発的にしか反応がみられませんでした。ところが、感染後にワクチンを接種した人の血液から採取された抗体は、ベータ株にもよく反応していることが観察されました。
このことから、過去に感染した人がワクチン接種を受けることで免疫の「幅」が広がり、感染によって獲得した免疫が働きにくい新たな変異ウイルスにも対応できるようになることが示唆され、改めて感染後にもワクチン接種を受ける重要性を知らせてくれる結果となりました。
さらに、仮に再感染をしてしまったとしても、ワクチン接種を受けておくことで、感染した際の症状を軽くしてくれたり、重症化から身を守ってくれる効果が期待できます。そして、これが最も大切な効果と言えるかもしれません。実際にその可能性を示した研究(※4)をお示しします。
アメリカで行われたこの研究では、感染後にワクチン接種を2回または3回受けた人で、「再感染による入院がどの程度防がれたのか」が評価されています。
結果として、ワクチンの接種によって、新型コロナウイルス再感染に関連した入院に対する予防効果が見られていることが明らかになりました。この研究はオミクロン株が優勢の時期に行われたものですが、入院につながる再感染に対するワクチン効果の推定値は2回の接種で約35%、3回目の接種で約68%でした。
さらに、現在流行中の「BA.5」に対する効果をみた研究もあります。この「BA.5」は、これまで以上に免疫から逃れる能力が高いことも知られています。しかし、ブースター接種対象者を対象にしたポルトガルの研究で、再感染時の入院予防に対する効果は2回の接種で22%でしたが、3回目の接種で77%と算出されました(※5)。
このことから再感染してしまったとしても、ワクチンをしっかりと必要回数接種しておくことが入院しなければいけないほどの重い症状から守ってくれることが示唆されます。このような理由から、感染歴の有無に関わらず、必要回数のワクチン接種が推奨されています。
まず最初に述べておきたいのは、ワクチンの安全性については、治験や様々な臨床研究、副反応疑い報告によるモニタリングなどが行われており、今回のテーマである、すでに感染している方も含めて、ワクチンのベネフィットを上回るリスクは確認されていないということです。
しかし、ワクチンを接種するにあたっては、発熱などすぐに軽快する症状であっても、どの程度生じるか、気になる方もいらっしゃるでしょう。それを知るにあたり、過去に感染を経験していない人と、過去に感染したことのある人でのワクチン接種後の副反応の出方を比較した研究(※6)もあります。この研究の対象者は、日本で用いられているmRNAワクチンの接種を受けています。その中で、最も頻度の高い副反応として「接種部位の痛み、腫れや赤み」が報告されていますが、これらの症状は過去の感染の有無で出現の違いはありませんでした。
一方、「倦怠感」、「頭痛」、「寒気」など接種部位とは関連のない副反応については、「未感染の人」と「過去に感染したことがある人」では後者で頻度が高い傾向がみられました(それぞれの出現頻度は「約25% vs 約51%」、「約18% vs 約38%」、「約7% vs 約30%」)。ただし、感染の有無に関わらず、副反応で入院が必要になるほど重くなった人はこの研究では報告されておらず、いずれも軽症に留まったことが報告されています。
※Krammer F, Srivastava K, Alshammary H, et al. Antibody Responses in Seropositive Persons after a Single Dose of SARS-CoV-2 mRNA Vaccine. N Engl J Med 2021; 384: 1372-4.に掲載されているデータを元に独自に表を作成
このことから、依然として軽い副反応がほとんどであると考えられるものの、「過去に感染したことがある人」の方がその頻度は高い可能性があり、感染後にワクチン接種を受ける方は、接種後に少なくとも1~2日は休みをとれるよう準備をしておくのがより大切と言えるでしょう。
このほか、感染後にワクチン接種を受ける場合に、他に気をつけておくべき点についても確認しておきたいと思います。
まず気になるのは、感染後どんなタイミングで接種を受けて良いかということでしょう。感染後すぐの時期はまだ体調がすぐれなかったり、他の人にウイルスをうつしてしまったりということも懸念されるので、定められた自宅隔離期間についてはワクチン接種を受けることができません。しかし、隔離期間が終わり、体調が回復すれば、ワクチン接種を受けることができます。その際、事前に検査などを受けていただく必要はありません。
3回目接種に関しては、厚生労働省の審議会で、感染回復から3ヶ月後に接種を受けることを暫定的な一つの目安としています。これは、初回接種完了後にブレークスルー感染した人の、感染から2か月後のオミクロン株に対する中和抗体価が、3回目接種から10日後の中和抗体価と同程度であったというデータ(※7)や、諸外国での動向等を踏まえたものです。ただし、「感染から回復後、期間を空けずに追加接種を希望する方についても、引き続き接種の機会を提供していきます。」とされており、希望があれば日本国内でも速やかにワクチン接種を受けることが可能です(※8)。
ここまで、「新型コロナウイルスの感染後でもワクチン接種は必要なのか」について、様々な面から整理をしてきました。ここでご紹介したように、感染後であっても必要回数のワクチンを接種いただくことには様々なメリットが考えられる一方、感染後だからこその注意点もあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。両者をしっかりとご理解いただいた上で、ワクチン接種をご検討いただければと思います。
(参考資料)
※1:Hammerman A, Sergienko R, Friger M, et al. Effectiveness of the BNT162b2 Vaccine after Recovery from Covid-19. N Engl J Med 2022; 386: 1221-9.
※2:Hall V, Foulkes S, Insalata F, et al. Protection against SARS-CoV-2 after Covid-19 Vaccination and Previous Infection. N Engl J Med 2022; 386: 1207-20.
※3:Stamatatos L, Czartoski J, Wan YH, et al. mRNA vaccination boosts cross-variant neutralizing antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection. Science 2021; 372: 1413-8.
※4:Plumb LD, Feldstein LR, et al. Effectiveness of COVID-19 mRNA Vaccination in Preventing COVID-19-Associated Hospitalization Among Adults with Previous SARS-CoV-2 Infection - United States, June 2021-February 2022. CDC MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71(15);549-555
※5:Kislaya I, Casaca P, Borges V, et al. SARS-CoV-2 BA.5 vaccine breakthrough risk and severity compared with BA.2: a case-case and cohort study using Electronic Health Records in Portugal. medRxiv 2022; : 2022.07.25.22277996.
※6:Krammer F, Srivastava K, Alshammary H, et al. Antibody Responses in Seropositive Persons after a Single Dose of SARS-CoV-2 mRNA Vaccine. N Engl J Med 2021; 384: 1372-4.
※7:Walls AC, Sprouse KR, Bowen JE, et al. SARS-CoV-2 breakthrough infections elicit potent, broad, and durable neutralizing antibody responses. Cell. 2022 Mar 3;185(5):872-880.
※8:厚生労働省新型コロナワクチンQ&A「新型コロナウイルスに感染したことのある人は、ワクチンを接種することはできますか。 」
(注:本コラムに記載している内容は、筆者の見解となります。また、記載されている名称・呼称、および知見などは掲載時点のものです。)
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